村上龍 愛と幻想のファシズム Fourteenth

 村上龍「愛と幻想のファシズム」。物語の後半でゼロがある夢を見ます。

 海岸にゼロともう1人の誰かがいます。ゼロはもう1人の誰かとは大変親しい仲なのですが、夢が覚めた後にそれが誰だったのかどうしても思い出せません。そしてゼロは、夢が覚めた事によってその大事なもう1人の誰かを海岸に1人置き去りにしてしまったような寂しい感覚に襲われます。このもう1人の誰かとは誰なのでしょう?

 トウジから見えるゼロとはもう1人のトウジ自身です。この物語の語り部はトウジですから、この物語のゼロとはトウジ自身。ゼロが夢の中の海岸に置き去りにしたもう1人の誰かとは、ゼロの夢の中である以上、ゼロではなく、トウジから見えるゼロでもなく、トウジでもありません。

 僕は置き去りにされたのは、本当のゼロなのだと思います。わかりますか、僕の言ってる事。わかりませんよね。僕もです。