村上龍 55歳からのハローライフ (7)

 村上龍「55歳からのハローライフ」に、リストラされたあと再就職がままならず、おまけに健康も害してしまい、いつか自分はホームレスになってしまうのではないかという恐怖感に、日々苛まれる男性の話があった。

 実は僕もたまに考える事がある。ホームレスとならないまでも、職を失い健康を害し、著しい収入減の中、一家が路頭に迷う姿を自分で想像してしまうのだ。僕にとってそれは考えられる中で最大の恐怖だ。この恐怖感を鎮める事は容易ではない。そして歳を追うごとにその恐怖感は大きくなる。

 この短編を読み終えた後、怖いのか悲しいのか、良かったのか悪かったのか、自分で自分の感情がよく分からない状態に陥り、ほとんど放心状態のようになってしまった。小説を読んでこんな気持になったのは初めてだ。

 村上龍はこの作品から何か希望のようなものを汲み取ってもらおうとしたのかもしれないが、今の僕にそんな余裕はなかった。だが小説内の出来事を受け入れる事だけは出来たようだ。これも人生なのだ。