村上龍 55歳からのハローライフ (8)

 村上龍の「55歳からのハローライフ」を読み終えて一週間ほど経つ。抜群に面白い短篇集だと思うのだがどことなく気分が重い。というか55歳というのは、この小説にあるようにこんなにも暗いものなのか?

 いや決して暗くないという反論も出来ると思うが、少なくとも50歳である今の僕より暗い事は確かだ。もし小説にあるような事が世間一般の常識の範囲内であるなら、5年後がじきにやってくる自分としては複雑だ。

 リタイヤ後の超ハッピーなライフスタイルを提案する、或いは啓蒙していくようなものが世の中に氾濫している。村上龍である以上、「55歳からのハローライフ」はその手のものとは一線を画すものだろうと予め予想していた。しかし結果はそれどころか全く別の次元の話だったのだ。根拠の無い薔薇色の未来を提示され、有り難く拝んでいるより余程マシなのだ。

 一週間前に読んだ時の高揚感がまだ残っている。暗かろうが重かろうが、小説の中の何かが強烈に僕を魅了している。だからもう一度読む。