村上龍 コインロッカー・ベイビーズ 4

 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。「コインロッカーの中で赤ん坊は蛋白アレルギーによる湿疹のため全身に天花粉を塗られ、咳をし続け嘔吐した。病気と薬の匂いが、偶然通りかかった盲導犬を吠えさせた」。

 これがハシです。あれっ、キクと違って、ハシは病弱なために偶然に助かったのかって。僕は偶然ではないように思います。病弱なハシにキクのような突出した身体能力はありません。その代わりに豊かな感受性と類い希な想像力を持っているのがハシです。心の中に非常に広くて奥行きのある世界を持ってるんですよね。ハシにもエネルギーが満ち溢れてるんですよ!

 ハシのエネルギーの源泉は深い哀しみです。母親に捨てられた哀しみ、そしてその後もずっとハシを支配し続けていく、深い深い哀しみです。

 コインロッカーの中でハシが助かった理由。哀しみがあまりに深いと、感情が器官や神経を覆い尽くして、精神が肉体を超越するということがあるんじゃないかな。哀しみのエネルギーがハシに死ぬことを許さなかった。