村上龍 コインロッカー・ベイビーズ 3

 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。「仮死状態だった赤ん坊は全身に汗を掻き始めた。熱は通常の数倍の速さで血を送り目を覚ませと促した。そして突然に爆発的に泣き出した。赤ん坊は熱に充ちた不快極まる暗くて小さな夏の箱の中でもう一度誕生した、最初に女の股を出で空気に触れてから76時間後に。赤ん坊は発見されるまで叫び続けた」。

 これがキク。この誕生の様子がキクを端的に表現しています。生まれながらに持ち合わせた非常に高い身体能力を感じずにはいられませんよね!

 そしてその高い身体能力以上に感じるのは、発見されるまで叫び続けるという圧倒的強さのエネルギーです。まだ生後間もない赤ちゃんなのに!

 このエネルギーの源泉は何でしょ。自分を捨てていった母親に対する怒りと憎しみですよね。他の誰も遭遇したことのない、想像を超えた、そしてその後もずっとキクを支配していく怒りと憎しみです。えっ、赤ちゃんがそんな感情を持つかって。赤ちゃんが何もわからないというのは大人の論理です。