村上龍 55歳からのハローライフ (10)

 村上龍の「55歳からのハローライフ」には5つの短編が収められている。各々は全く別の話なのだが、すべてに共通している事がひとつある。それは主人公達が特定の飲み物をこよなく愛しているという事だ。

 その飲み物とはそれぞれ紅茶、ミネラルウォーター、コーヒー、プーアル茶、緑茶。彼らにとってそれを飲むという行為は一種の儀式のようになっている。儀式は安心を呼ぶ。彼らが心の均衡をどうにか保つ事が出来ているのは、愛して止まないそれら飲み物のおかげなのだ。

 村上龍らしいとても洒落た設定だと思う。彼らは本来ならお酒に逃げてもいいはずだ。僕ならそうするだろう。仮に彼らが酒に溺れてしまっているようなら、最後まで読むのは辛かったと思う。どんなに酷い状況であっても、飲み物によって自分を見失わないで踏みとどまろうとする彼らに、僕は品のようなものを感じる。彼らの行う儀式は読者にとっても救いなのだ。

 彼らの飲み物は、彼らがまだプライドを失ってないという証なのだと思う。

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