村上龍 悲しき熱帯 3

 村上龍「悲しき熱帯」収録の「フィリピン」。大好きな作品です。「フィリピン」には映画のロケ隊が登場しますが、後の龍さんのエッセイでも明らかなように、これはコッポラ監督の「地獄の黙示録」のロケ隊です。ベトナム戦争を扱ったこの映画の戦闘シーンはフィリピンのラグナ湖で撮影されたらしく、龍さんはロケ現場を訪れて見学しているようです。

 ベトナム戦争=狂気は既に定番ですし、「地獄の黙示録」も狂気の映画だったワケですが、短編「フィリピン」の中で龍さんは、ロケ自体をも狂気として描き、更にコッポラ監督の狂気にも迫っています。

 「俺の中の冷たい部分が好きだ。この暖かい空気の中で俺の中に冷気があるのを認める瞬間が好きだ」。こう自らの中に潜む狂気を語る主人公ヴォイス。ロケ隊とのパーティの後にヴォイスが見せた姿はあまりにも悲しいのですが。

 物語全体を包む異常な熱気と狂気がそれを緩和させ、読後感は何故か爽快でクールという実にシャープな作品です。ホント大好きです。