村上龍 テニスボーイ・アラウンド・ザ・ワールド (3)

 一昨日の土曜日から、長男のテニス部の地区予選が始まった。長男は中学3年なので、このトーナメントで敗退した時点で部活引退となる。トーナメント形式の大会は今まで幾度も経験してきたが、この日勝ち残らなければその全てが終わるという状況は、家族にとって想像以上に過酷なものだった。

 長男は全く力を発揮できないまま、予選通過ラインの試合で敗けた。実力を出し切って敗けたのではない。ほぼ自滅のような形で敗けた。僕はひどく混乱した。長男に声を掛けることはおろか、顔を合わす事すら出来なかった。

 その試合から1時間後、僕と奥さんは敗者復活戦がある事を知った。長男の場合はそれに参加出来るのだという。どうやら保護者だけがそのシステムを知らなかったらしい。助かった。本当に心の底から助かったと思った。

 敗者復活戦は、ファイナルゲームをデュースで繰り返すというウソのような試合になり、そして長男はかろうじて勝った。胃が痛くなる試合だった。こんなに疲れた日は過去にない。そんな親の気苦労を長男は知る由もない。