村上龍 コインロッカー・ベイビーズ (48)

 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。ガゼルに惹かれる人は多いと思う。ガゼルのように生きれたらいいなと思う自分が間違いなく存在する。

 でもカゼルのように生きる事は難しい。ガゼルを真似ても、行末は孤独と不安で押し潰されるのがオチだ。そんな事は当然のように分かっているのだが、いつまで経ってもガゼルへの憧れは消えなかったりする。

 僕を含め多くの人達はガゼルと真反対の生き方を選ぶ。会社に就職し、自由な時間を奪われた代償として安定を得て、家庭を築き、家族と学校に振り回されながらも、家族でいる事に安心感を持ち、地域の中に当たり障り無く溶けこみ、これが自分らしさだとばかりに趣味のサークルに没頭する。これらはすべて正解の生き方だ。平凡である事は幸せなのだ。

 だが一生懸命に守り抜いた平凡も壊れる時がある。「55歳からのハローライフ」が示唆した通りだ。不幸にもそうなった時に必要なのは、ガゼルのスピリットなのではないだろうか。ガゼルへの憧れを捨て去る必要はないと思う。