村上龍 55歳からのハローライフ (21)

 村上龍「55歳からのハローライフ」。最後の短編「トラベルヘルパー」は、職もない家族もいない中年男が恋をしてしまう話だ。

 最初に読んだ時、なんてカッコ悪い男なのだろうと思ったが、最近再読したら、やっぱりカッコ悪い男だった。やる事なす事すべてが垢抜けない。そして案の定うまくいかない。読んでいるこっちまで恥ずかしさを覚える主人公というのは、村上龍作品としては異例な事だ。なんでここまで貶めるのか?

 村上龍が追求したのはリアリティなのだと思う。中年男の恋なんて所詮こんなもの。映画やドラマにあるようなハッピーエンドなんで期待する方がバカなのだ。じゃあ僕も含めた中年男に夢も希望もないのかとなるのだが、恋に関して云えば夢も希望もないと思っていた方が無難だと思う。

 でも恋愛は自由だ。恋に落ちてしまったら自分を制御する事は出来ない。「トラベルヘルパー」の主人公のようになってしまう事を予め覚悟した上で、果敢に攻めるのも人生だと思う。老いたからといって恋を怖れてはいけない。