村上龍 55歳からのハローライフ (20)

 村上龍「55歳からのハローライフ」。「ペットロス」を読んで、飼い犬が死んだ時の事を思い出した。7年前の事だ。「ペットロス」のように病に冒され看病されつつ死んだのではない。我が家の犬はある日突然死んだ。

 その朝、僕は犬との散歩をすませてから会社に出掛けた。いつもと変わらぬ朝だった。奥さんから携帯に電話があったのはお昼頃だ。奥さんはかなり取り乱した様子で一言だけ告げた、「○○が死んじゃった」。

 僕はすぐさま会社を抜け出し帰宅した。飼い犬はいつも寝ているのと同じ姿勢で横になっている。ただ普通に寝ているだけに映る。だが体を揺すりながら呼びかけても返事がない。体はまだ暖かかったが少し固い。最初は何が起こっているのか理解出来なかった。呆然としつつ、その内まったく呼吸をしていないという事実に気付き、僕はその場に泣き崩れた。

 村上龍は「結婚相談所」で気持ちを尽くすという言葉を使っている。僕は自分の飼い犬に対して気持ちを尽くす事が出来なかったのだと思う。