村上龍 55歳からのハローライフ (16)

 村上龍「55歳からのハローライフ」。「キャンピングカー」という短編の主人公は定年退職したばかりだ。退職金を使いキャンピングカーを購入し、妻と一緒に日本各地を自由気ままに旅して回りたいと考えている。

 僕も定年退職したら思う存分やりたいと思っている事がある。というかサラリーマンであれば、事の大小を問わず誰もがそのような夢を持っていると思う。そういった夢でも見続けていなければ、何十年も来る日も来る日もサラリーマンなんてやっていられない。自分へのご褒美のようなものだと思う。

 と、僕はずっと思ってきたのだが、この短編を読むとそればかりではないようだ。この男の場合、会社を辞めた途端に襲ってくる空虚さを埋める役割がキャンピングカーでの旅行になっている。会社名というその人を表す肩書きが無くなった以上、直ぐにでも何かを始めなければ自分のアイデンティティが保てないのだと思う。つまりこの男は会社人間という事になる。

 「自分は会社人間ではない」と、僕は言い切れるだろうか?