村上龍 55歳からのハローライフ (14)

 村上龍「55歳からのハローライフ」、「空を飛ぶ夢をもう一度」。どうして主人公の男は、そこまでして旧友を母親の元に連れて行こうとするのだろうか?

 自身も満足に歩行できないほどの腰痛、妻より手渡されたなけなしの金、旧友に義理はなく、たどり着ける可能性は薄い。ホームレス寸前とホームレスの中年ペアは、福祉事務所で無力感に包まれ、タクシーに無視され、バスの乗客に罵られ、何処に行っても嫌悪と憐れみの視線に晒される。

 こんな時たいがいの人は何も抵抗出来ないと思う。その状況を黙って受け入れるしかない。やがて主人公の男はホームレスに、旧友は死に至るのだと思う。でも村上龍は黙って受け入れるのを拒否させた。僕はこの一文がすべてだと思う。「無力感に押しつぶされて何か大切なものを放棄しないための、最後の手段としての怒り」。主人公を突き動かしていたのはバカにするなという怒りだったのだ。まさに最後の最後の抵抗なのだと思う。

 この作品が泣けて仕方ないのは、その抵抗に感動するからだと思う。

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