村上龍 55歳からのハローライフ (6)

 会社の同僚である60代の女性は、夫と別居して5年程経つ。本人は離婚したいが、夫が応じない。子供は既に巣立っている。僕はこの話を最初に聞いた時、なかなか理解出来なかった。なんで今更離婚なのかと。

 村上龍の「55歳からのハローライフ」にも、同僚と同じような女性が主人公として登場する。やはり愛想を尽かされているのは夫の方だ。夫のどのような態度が我慢ならないのか。作品を読むと妻側の気持ちがヒシヒシと伝わる。夫がアル中だとかギャンブル好きだとか、そういった致命的な何かがあるのではない。ごくごく普通の日常の中に危険な芽は潜んでいる。子育てが終わり夫が定年を向かえる時、その芽は吹き出してくる。

 そういえば先の同僚も、現在自分ひとりの生活を謳歌している。以前より生き生きとしているように感じる。いったい夫婦とは何なのだろう?

 村上龍は作品の中で夫婦というものを的確に捉えていた。きっとその通りだと思う。非常に考えさせられる作品、傑作だと思う。