村上龍  「超能力」から「能力」へ (2)

 僕が子供の頃、超能力者だと名乗る人達が、TV 番組に登場してはスプーンを曲げていた。視聴者はそれに驚き、悲鳴をあげ、そして喜んだ。

 スプーンが曲がったからといって、いったいそれが何の役に立つのか。曲がったスプーンはもう食事には使えない。不燃ごみを出しているだけではないのか。そういったスタンスが貫かれているのが、村上龍と山岸隆の対談集「超能力から能力へ」である。

 考えてみれば不思議で、超能力者と名乗る人達はなぜ皆がスプーンを曲げていたのだろう。フォークではいけないのか。ステンレス製でなければならないのか。もっと大きなモノは曲げられないのか。そんなに自分の力を誇示したければ、電柱とか高架橋の柱でも曲げればよかったのに!

 いずれにしてもそれらはムダな事。もっと科学的にそして合理的に超能力を使おうよ。僕がこの本に惹かれた最大の理由はそういった発想の新しさにある。超能力はエンターテイメントではないのだ。