村上龍 それでも三月は、また (6)

 僕はZippo を使っている。Zippo の底面には製造年月の刻印がある。マニアになると自分の誕生日や特別な記念日と同じ年月の刻印を求めて、オークションなどで高値で取引するらしい。

 今年の始まりに気分を変えようとZippo を買い換えた。届いて開封してみると、例の刻印が2011年3月だった。つまり東日本大震災が起こった時に製造されたものだったのだ。それがどうしたと問われると答えに困るのだが、なんだかとてもうれしくて自分でも驚くほど愛着が湧いた。

 Zippo はメンテナンスする事で、半永久的に使用する事が出来る。今回買ったZippo を一生使い続けようと思った。今後Zippo は一切買わない。多くのものが失われたあの時にこの世に生まれたものを大切にしたい。

 「それでも三月は、また」は未読の部分がちょっとある。村上龍の作品「ユーカリの小さな葉」も未読だ。もうじき3月11日、ちょうど週末でもある。Zippo を眺めつつ、静かにこの本を読んで過ごしたい。