村上龍 それでも三月は、また (5)

 日本漢字能力検定協会が選んだ昨年の漢字は「絆」だった。東日本大震災を受け、1年間を通じて絆のオンパレードだったような気がする。

 絆に対して異議はない。だが口にするのも照れくさいようなこの言葉が、東日本大震災を象徴しているように扱われているのには違和感を持っていた。辞書によると、断つことの出来ない人と人のつながりを絆という。余計なお世話かもしれないが、絆のない人もいる。絆がないからといって生きていけないわけではない。幸せになれないわけでもない。

 村上龍の「それでも三月は、また」を読みながらふと思ったのだが、人を救ってくれるもの、幸せを感じさせてくれるものとは、単につながりなのではないだろうか。家族や親友でもない通りすがりの人や、場合によっては動物や物、更には思い出でもいい。その人とつながっているすべてのものが、生きていく力を与え、幸せを感じさせてくれるものとなるのだと思う。

 絆である必要はない。つながりがあればいいと思う。