村上龍 それでも三月は、また (4)

 村上龍の「それでも三月は、また」を、あともう少しで読み終える。

 僕は普段からあからさまに涙を誘うようなものには近づかない。暗い気持ちになるのが嫌だからだ。この短篇集は東日本大震災をテーマにしているので、場合によっては泣いてしまうかもしれない、でも村上龍が名を連ねている以上、きっとクールでドライなはずだと思って読み始めた。

 結論から言うと泣いた。だが予想したとおり読後感は清々しい。実は読む前から自分の中で泣きたいという欲求があった。しかも気持よく泣きたいと思っていた。そのような欲求はこの本によって満たされた。

 ところで幸せって何だろうという永遠のテーマのような命題があるが、この短篇集を読んでいると、そんな事を考えずにはいられなくなる。ありきたりの答えになってしまうが、幸せとはあちらこちらにゴロゴロと転がっているようなモノを指す。日常そのゴロゴロは足で踏みつけられたりしているが、非日常の中に放り込まれるとそのゴロゴロは輝き始めるのだ。