村上龍 走れ! タカハシ (5)

 僕が保護者会長を務める少年野球チームの全日程が終了した。シーズン当初は超の付く弱小チームだったものの、シーズンが終わる頃には超の字が落ちて、どこにでもあるごく普通の弱小チームに落ち着いていた。

 もちろん僕は満足していない。情けない思いを何度もしたし、悔しいし、頭に来るし、歯がゆいし、辞めてしまいたいと思う事もあった。

 最終日の夜は親子揃っての大宴会で締め括った。その別れ際だが、ほとんど毎週チームに同行してくれた父兄のT さん、彼のお子さんは6年生なのでこの日でチームを卒業するが、僕をつかまえてこう言った。親子共々、本当に楽しい思いをさせてもらった。ありがとう。

 その言葉を聴いた瞬間、熱いものが込み上げてきた。自分たちがやってきた事はこれで良かったんだ、そう思う事が出来たのだ。良い成績は残せなかったが、一生懸命やった事に違いはない。欲を出せばキリがない。何もかもを良しとしよう。かけがえのない素晴らしい1年間だったのだ。