村上龍 心はあなたのもとに (8)

 どんなに愛していても、ずっと一緒にいることはできない。

 村上龍「心はあなたにもとに」。香奈子がいずれ亡くなる事は小説の冒頭で明らかにされている。愛しあっているふたりを、死という現実が引き離すのだから、当然一緒にいることは出来ない。帯に書かれたこの言葉は一義的には西崎が辿るそのような現実を指している。

 しかし村上龍はこの言葉を通して別な問題を提起している。どんなに大切な人がいたとしても、ずっと一緒にいる必要はない。誰にでも自分だけの世界があり、相互に100%依存しあっている関係でもない限り、相手の為だけに多くの時間を裂く事は出来ない。もしそのようにして自らの世界を放棄すれば、その時点でその人はその人でなくなる。この事は自立と依存を題材にした「最後の家族」で、家族達が辿り着いた結末と同じなのだと思う。

 ただ、大切な相手が香奈子のような重い病気だったとしたら。ずっと一緒にいることはできないと、言い切っていいのだろうか?