村上龍 心はあなたのもとに (7)

 村上龍「心はあなたのもとに」。最初この作品のタイトルを目にした時、村上龍にしてはずいぶんとピュアなタイトルだなと感じた。

 「心はあなたのもとに」は、西崎にメールを送る際に香奈子が必ずメールの末尾に添えている言葉だ。この作品は2人のやり取りするメールが語り手のような役割も果たしている。メールによって重要な事が明かされる。この作品において、メールの位置付けはおそろしく重要だ。頻繁に登場するメール、その中で繰り返される小説タイトル。なかなか憎い演出だと思う。

 しかしそのような演出以上に深く読者の心を捉えるのは、「心はあなたのもとに」という言葉の本来持つ意味だ。小説を読む前、この言葉から感じ取れる事はそう多く無かった。そもそもあまり使う言葉ではない。好きですというのと同じで、異性を口説いたり、恋人に囁いたりする時に使う一種の詭弁のような言葉という程度にしか思いは巡らなかった。だが今は違う。

 小説を読み終えた後、この言葉の持つ意味は重い。