村上龍 心はあなたのもとに (3)

 村上龍「心はあなたのもとに」。「歌うクジラ」ほどではないのだが、前半と後半ではずいぶんと違う印象を持った。後半はキュッと締まっているが、前半はかなり取っ散らかっている。テニスボーイを連想させた所以だ。

 これだけシリアスなテーマを扱っていながら、前半部分において複数の女性を次々と登場させる節操の無さに嫌悪感を持つ方もいるかもしれない。最初からメインテーマにもっと踏み込んで欲しいと感じた読者もいるだろう。

 しかし僕は前半部分も嫌いではない。この軽々しさこそが村上龍なのだと思う。ごく普通の生活をしている人からすれば非道徳的で非日常的な事であっても、主人公の西崎にしてみればこれが当たり前の日常なのだ。しかも西崎はまったく熱くなっていない。非常に冷めている。この西崎の視点が、読者に淡々とした印象を与えている。散らかった日常は面白いのだ。

 テニスボーイは何年経ってもテニスボーイだろうが、もし何かをキッカケに仕事に開眼したりすると、20年後に西崎になっていても不思議ではない。

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