村上龍 ニューヨーク・タイムズ寄稿文 / 危機的状況の中の希望 (3)

 3.11 東日本大震災からちょうど2週間が経つ。いまだに死者・負傷者の数すら把握できず、福島原発も事態の好転は見られない。

 圧倒的に悪いニュースの方が多い。その度に過去に経験した事のないような恐怖を感じる。この恐怖から逃れる方法はない。一方で良いニュースもある。良いニュースに触れると、日本は復興に必ず成功するんだと思う事が出来る。物事を前向きに考えようとする自分がいるのも確かだ。だがそんな自分を悪いニュースが意図も簡単に吹き飛ばす。その繰り返しだ。

 専門家も含め、全ての国民が原子力に対して無知だったのだ。もっと勉強すべきだったし、小さい頃から教育もすべきだった。無知だから怖いのだ。

 昨晩の作業員被爆に関する一連のニュースは、僕の気持ちを沈ませた。結局は福島原発の冷却作業が成功しない限り、完全には前を向けない。爆弾を脇に抱え、怯えながら走り切る事は出来ない。原子力を今後もエネルギーとして使用するのなら、国民皆がもっと勉強すべきだと思う。