村上龍 歌うクジラ (23)

 村上龍「歌うクジラ」。上巻は面白くて下巻はつまらない、とずっと言ってきたが、上巻と下巻とで作品を区別するのは適切でない。当たり前だが、上巻と下巻を別けたのは出版社で作家ではないからだ。

 だがどうしてもこの作品は2つに分割したくなってしまう。アン・サブロウと別れる前と別れた後では、やはり何かが完全に違う。イメージ的に分かれる前は動で、別れた後は静だ。動の部分は誰が読んでも飛び抜けて面白い最高のエンタテイメントで、静の部分は読むのに忍耐が必要。

 しかしながら、あれもこれも村上龍が意図してそういう展開にしたのは間違いのない事実。読者ウケしようと思えばいくらでも出来たのに、あえてそうしなかったのだろう。村上龍は書きたい事が別にあったのだ。僕などがつまらないとか読むのに忍耐が必要などと言ってはいけない。

 今、僕はこう思っている。この静の部分は、最も重要な最終章「Eポッド」を、最大に際立たせる為の長い長い布石なのだと。