村上龍 歌うクジラ (21)

 村上龍「歌うクジラ」。アンとサブロウがいなくなって、この物語に登場する人物はアキラを除けば老人だけになった。そしてその老人達は生きているのか死んでいるのか分らないような者ばかりだ。

 ヨシマツは憎むべき人間だ。サツキは良く描かれているが、個人的に全く好きになれない。その他の登場人物も含めこの老人達に出逢う価値は無い。寿命だけが延びて、誰とも関わらず、孤独に死を待つ。現代社会の暗い部分をそのまま誇張したような世界観は、読む者を次第に圧迫する。自分が老いていく過程の中で、この老人達のようにならないとは限らないからだ。

 アキラだけが唯一の希望なのだが、アキラひとりに背負わすには問題が大きすぎる。老人の数も多すぎる。問題が解決しそうな予兆がまったく無く、満足する結末は訪れそうもない。正直、重苦しく辛い気持になる。

 アンやサブロウに反乱移民の人達、こういった活き活きと生きる人物を外すことで、村上龍はこの息苦しい世界観を狙ったのだろうか?