村上龍 歌うクジラ (20)

 村上龍「歌うクジラ」。アキラは隔離施設でアンともサブロウとも別れる事となる。この別れ際があっさりし過ぎているように感じる。

 総合精神安定剤が効いているという事もあるだろうが、アンはもっと抵抗してもよかったのではないだろうか。サブロウも同様だ。サブロウが隔離施設側の人間の言う事を素直に聞くとは思えない。食品モールで追っ手を振り切った時のように、2人とももっと抵抗出来たはずだ。

 何が言いたいかというと、アンにもサブロウにも、是が非でもアキラに着いて行くんだという強い意思が見受けられなかった、その事に淋しさを感じるのだ。あの場で何人かを毒で殺め、ステージを破壊するくらいの事をやらないとアキラには着いていけない。それが出来ない時、その後にあるのは別れだという事を、アキラを含め皆が分かっていたはずなのに。

 別れという大事な局面を前にして、アンとサブロウが意図も簡単に権力に屈してしまうはずがない。2人は死を恐れたりはしない。