村上龍 限りなく透明に近いブルー (14)

 村上龍「限りなく透明に近いブルー」は、主人公・リュウのドラッグと暴力とセックスの日々が淡々と綴られている。リュウがそれらを楽しんでいるようには見受けられない。持て余すエネルギーの消費先となっているだけだ。

 リュウは惰性の中で生きている。そして次第に傷ついていく。リュウに目的がないからだ。若い頃は誰にでもこのような経験がある。この作品のような過激な事はさすがにないが、リュウと同じような思いを多くの若者はしているはずだ。リュウの気持ちが分かれば分かるほど、この作品は哀しい。

 しかしリュウに自分の今後が全く見えていないのかと云うとそうでもない。リュウが新しい何かを始めようとする予兆のようなものを感じ取れる部分もある。今は惰性の中に身を任せつつ、その何かがいつか自分のもとにやってくるのを、目を見開いてひたすら待っているかのようにも感じ取れる。

 リュウは自分を見失っていない。むしろ見えている。そしてリュウの視野は開けている。そう思うと哀しさの向こうに希望が見えてくる。