村上龍 歌うクジラ (12)

 村上龍「歌うクジラ」。少年が主人公という事以上にイイ事があった。アンという名のヒロイン。文学にヒロインの存在が不可欠などと云うつもりは毛頭ない。しかしヒロインがいるだけで、幸せな気持ちになるのも事実。

 「半島を出よ」という超傑作には、主人公と行動を共にするヒロインが不在だった。「半島を出よ」に酔いしれたのは事実であり、心の底から素晴らしいと思って止まない。だが、もしイシハラグループの中に一人でも魅力的な女性がいたらどれだけ良かっただろうと今でも考える事がある。

 ヒロインと云っても、綺麗で可愛い女性を配置すればいいという単純なものではない。作品のカラーを全面に押し出すような、ある種の突拍子の無さが必要だと思う。そして読者を虜にするような、容姿・ファッション・仕草等を兼ね備えていなければならない。アンは驚くくらい完璧だった。

 「コインロッカー・ベイビーズ」のアネモネは、村上龍が創造した究極のヒロインだ。アンにアネモネの再来を感じたのは僕だけではないだろう。