村上龍 ニューヨーク・シティ・マラソン (12)

 小学6年の長男が、校内マラソン大会の賞状を持ち帰ってきた。長男にとって最後である今年の大会、実は信じられないアクシデントが起こった。

 レース終盤は校庭のトラックを3周する。そしてゴールなのだが、ここである先生が勘違いからトップ集団に対してもう1周の指示を出してしまったのだ。トップ集団の子供達は、不思議に感じながらも1周多く走ってゴールした。そしてトップ集団で6位ほどにいた長男は、ゴール直後に29位と告げられた。何かが間違っている。それに気付き出した子供達は怒り、そして泣き出した。真っ赤な顔で訴える子供、先生に詰め寄る父兄。校庭は騒然となった。

 長男が悔しさのあまり、しゃくりあげて大泣きしていた。次男と違って長男はいつもクールで、この何年、長男の涙など見た事がない。その長男が肩をゆすって泣いている。本当に驚いた。見守る以外に為す術がなかった。

 その日の夜、僕は、何となく晴れやかな自分に気付いた。普段は決して表に出さなくとも、長男にも人一倍の熱さがあるのを知ったから。