村上龍 歌うクジラ (14)

 村上龍「歌うクジラ」。物語は始まって間もなく、壮絶なアクションシーンに突入する。アキラ達が島を脱出して本土の食品モールを抜ける部分だ。数えきれないロボット群を相手にカーチェイスを繰り広げ救出を待つ。

 夢中で読んだ。作品世界に一瞬で引き込まれた。村上龍はアクションシーンの描写が本当に巧いと思う。こういったシーンに必要以上の会話は無い。登場人物が想いを語る事も無い。語り手が何かを説明する事も無い。あるのは登場人物達の身の動きだけだ。文章が巧くなければ、何が起こっているのか見失ってしまう。村上龍は巧い、見失う事は一切なかった。

 まるでハリウッド映画のようだと思った。いや、ハリウッド以上に興奮した。多分それはリアリティだと思う。ハリウッドでは車が何台も吹き飛び、ビルも倒壊するが、死者が画面に映る事はない。村上龍は死者を書いている。おびただしい血痕、潰れた胴体、ちぎれ飛んだ手足。

 そして何より速い。過去の全作品の中でも群を抜くスピード感だった。