村上春樹 ノルウェイの森 15

 何故、直子は自ら命を断たなければならなかったのか。僕は、村上春樹「ノルウェイの森」を最初に読んだとき、直子の自殺の理由を深く考える余裕がなかったんですよ。残されたワタナベくんやレイコさんの動向の方が気になってしまい、病が徐々に彼女を支配し、最後にとうとう自殺にまで追いやられてしまった程度に、実に簡単に思い込んでいたんです。

 ところが再読時、プロローグにおける「何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ」という衝撃的な一文、ハッとしましたよ。

 直子の自殺の理由は、彼女がキズキを選んだという事ですよね。彼女はワタナベくんではなくキズキを愛していた。死の世界にいるキズキを求め、自らすすんで生と死の境界を越えた。ワタナベくんのいる生の世界に彼女を振り返らせるものなど、哀しいことに何もなかったんです。

 病の進行が生と死の境界を曖昧にさせたのも事実でしょ。ですが彼女の選択には彼女の強い意志が働いていたんじゃないですか?