村上春樹 ノルウェイの森 13

 「そう考えると僕はたまらなく哀しい。何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ」。村上春樹「ノルウェイの森」。

 37歳になったワタナベくんが18年前を振り返る、この作品のプロローグの中の一文がこれです。僕のことを愛してさえいなかった、18年前の出来事をこのように結論づけ振り返ったワタナベくん。この一文の衝撃度はかなり大きいですよね。ただし読者は18年前のストーリーを読む前にこの一文を読むため、何の感慨もなく通過してしまうんですよ。つまり読者に圧倒的な衝撃を与えるのは、おそらく多くの場合再読時というワケです!

 それにしても、直子がワタナベくんを愛してさえいなかったなんて。どうです、信じられますか。プロローグの一文がなければ、直子の心の中をそこまで断定的に捉えた読者は少ないんじゃないですか?

 18年前の回想によってストーリーが語られるというこの作品のプロット。この仕掛け、やっぱりスゴいです。再読時、読み方は変わる!