村上龍 コインロッカー・ベイビーズ Coda3

 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。キクやハシの年代というのは、どんな人にも多かれ少なかれ、キクのスピリットが宿ってたんじゃないですか?

 人は若いほど無力です。生きていくための知識も無ければ、生き抜くための智恵もない。キクやハシのように、得体の知れぬ不安と闘った夜が何度もあったでしょ。怒りや苛立ち、哀しみと自己嫌悪、ボロボロになって傷だらけになって、それでもなんとかキクのスピリットが大人にしてくれた。

 大人になった途端、知識を得て知恵がつき、真剣に怒り哀しまなくても、動き回らなくても、自分を罰しなくても、愛想笑いと妥協だけで世の中を渡っていける。そして誰もがキクのスピリットを失っていくんですよ!

 キクのスピリットを完全に失ったら、死んでいるのも同然でしょ。キクのスピリットとは、何歳になっても決して失っちゃいけないものなんですよ。失いそうになってヤバいと感じた時はひとりそっと呟いてみるべきです。「俺達は、コインロッカー・ベイビーズだ」。