村上龍 コインロッカー・ベイビーズ 29

 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。アネモネはキクに出逢った事で破壊願望を持ったのではなく、キクに出逢う以前から破壊願望を持っていました。自分と同じ意志を持つキクの出現をずっと待ってたワケです。

 キクを破壊に向かわせた動機に比べると、アネモネの動機は分かりづらいですよね。両親のいる裕福な家庭に抜群の容姿で産まれ、何不自由なく育ち、いったい何が不満だっていうんでしょうね、アネモネなら面白可笑しく人生を楽しめたでしょ。何故、都市を破壊しなければならないのか?

 前もって何もかもが完璧に揃っているという、周りの環境が嫌なんですよ。自ら築き上げた真の世界ではなく、他の誰かが用意した偽の世界が嫌。更には過去に誰かが築き上げた文明そのものが嫌なんです。つまりいったんリセットしたかったんですよ。自然に回帰したかったんです。アネモネを破壊に向かわせたのは、強烈な自然回帰主義なんじゃないですか?

 アネモネの自然回帰主義の象徴が、巨大鰐ガリバーでしょ。