村上龍 コインロッカー・ベイビーズ 31

 「俺達は、コインロッカー・ベイビーズだ」。生きたくて生きたくて、この世界で真剣に生き抜く道を探し続けたキクが、最後にやっと掴み取った境地は、我が身を肯定する事でした。そしてダチュラという最強兵器による空前絶後の破壊。鮮やかな人生です。村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。

 ところでもう一方の主人公であるハシはどうだったか。オマエは不必要な人間だと告げた母親、更には腐敗した社会全体にどう対峙したのか?

 ハシが自分を必要としてくれている、と思う事が出来たキクに対して、キクが自分を必要としてくれている、と思う事が出来なかったハシ。ハシの場合は、不必要な人間という硬い殻の中からまったく出られないワケです。キク以上に闇は深い。ニヴァがハシを称してこう言います。

 「この若い男はあたしの知らない地獄を通過してきたのではないかと思った。今はそう思わない。ハシは地獄を見たり通過してきた人間ではない。自分の中に1個の内蔵として地獄を飼っている人間だ」。