村上龍 コインロッカー・ベイビーズ 9

 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」。キクは、自分を捨てていった母親に対する憎しみと同居させるかたちで、赤ちゃんの自分を高々と抱き上げる強い父親という幻影を持っています。ガゼルとの出逢いによって、キクの中でガゼルが父親の幻影と同化していきます。

 ガゼルが中学生のキクに言った言葉。「おふくろを憎んでるか。親を殺したいと思うだろ。産んだやつをよ、片っぱしから殺していけば、いつかそいつにあたるよ。お前には権利がある、人を片っぱしからぶっ殺す権利が」。

 ハシと違って、キクが催眠療法から解き放たれる瞬間は、あまり明確ではありません。ですが、間違いなく覚醒のファーストステップとなったのが、このガゼルの言葉でしょ。圧倒的な信頼を寄せる誰かから、重要な何かを許可される。後の「共生虫」と同じプロットですね。キクの持つ制御不能なエネルギーは、ガゼルによってひとつの方向性を見いだせたわけです。

 ガゼルはもうひとつ重要な事をキクに教えます。ダチュラ!