村上龍 イビサ 6

 意外なことに、村上龍「イビサ」は超常現象ノベルでもあります。ヨーロッパに渡ったマチコに、突然エスパーとしての能力が芽生えるのです。

 言語波と呼ばれる一種のテレパシーを使う事ができたり、ジョエルという名の分身と会話をする事ができたり、ヨーロッパの地に古くから住み自分をガイドだと名乗る亡霊を引き寄せたり、幽霊を感じる事ができたりと。そしてこの超能力のような不思議な力は、いつもマチコの旅を助けます。

 「イビサ」を読み進める過程で、この超能力はあたかもヨーロッパの地にあらかじめ属していたかのような、またはヨーロッパの地においてマチコが交わった者から偶然に発生したかのような、そんな感じを受けます。

 ですがこの超能力、眠っていたマチコそのものと考える事もできますよね。日本を離れた事で本来持っていたマチコの力が顕在化したんじゃないかと。そしてその力が象徴するものとは危機感であり、ジョエルも亡霊も、実はマチコの危機感が可視できる状態で出現したものなのでは?