村上龍 特権的情人美食 村上龍料理&官能小説集 3

 村上龍「特権的情人美食」、「オーパス・ワン」。主人公のわたしは幼い頃の性的虐待によって、医師をも信じる事ができない程の人間不信に陥っています。不倫相手だったと思われる男性と別れたばかりで、その男性が用意してくれたヴィラで静養しています。舞台はハワイのリゾート、カパルアベイ。

 この男性が彼女のために用意してくれたものはヴィラだけではありません。冷蔵庫の上の食器棚にオーパス・ワンを置いてくれたのです。オーパス・ワンはアメリカ西海岸の傑作と言われる赤ワインです。

 南国のリゾートを舞台に、たった1本のワインが、傷ついた彼女を癒し、心を解放させていきます。そして新しい出逢いまでも。

 僕はこの作品が大好きです。静かにゆっくりと流れる時間の中に、そっと希望が隠れています。オーパス・ワンの持つ力に魅了され、その男性の優しさに感動し、そしてなにより、ほんの少しでも前を向いた彼女はとても魅力的です。これからの彼女を見守ってあげたくなるような優しい作品です。