村上龍 エクスタシー 2

 「ゴッホがなぜ自分の耳を切ったか、わかるかい?」。村上龍「エクスタシー」の最初の1行がコレです。場所はニューヨークのダウンタウン、この作品の形式上の語り手であるミヤシタが、ホームレスの男から突然日本語で声をかけられる事でこの物語がスタートします。

 それにしてもこの導入部どうですか。もうカッコ良すぎて言葉がありませんね。天才の仕事とはこういう事を言うんですよね!

 ミヤシタは20代後半、ビデオ制作会社に勤める青年です。その以前は、シンクタンクに籍を置き中東のカントリーリスクを研究していた経歴があります。一般的な同年代の青年に比べればクレバーな感じを受けますし、最小限の危機感もちゃんと持ち合わせているように見受けられます。そもそも凡人の場合、ホームレスからのこんな問いにはイチイチ反応しないでしょ? 

 ミヤシタは、このたった一言に反応したばっかりに、際限なく拡がる「エクスタシー」の宇宙に投げ出されるワケです。「エクスタシー」の宇宙!