村上龍 海の向こうで戦争が始まる 9

 村上龍「海の向こうで戦争が始まる」。野犬に足首を噛まれた少年は「あの野郎、殺してやるぞ」と叫び、祭りに苛立つ狂った大佐は「祭りじゃない、私は戦争が始まればいい」と言う。衛兵の妻は自分にからんだ男達を「ガソリンを体にかけて焼き殺してやりたい」と思い、母を案ずる息子は全てを呪い「爆弾が降ればいい、欲しいのはメロンではなく爆弾だ」と言う。

 4者の苛立ちが頂点に達した時、海の向こうの町で戦争が始まります。

 ほんの何人かの苛立ちが戦争を誘発するなんて馬鹿げていると、そう考えるのは簡単です。ですが考えてみれば、過去の国家どおしの戦争にしろ地域紛争にしろ、その発端となった出来事というのは、ほんの数人の極度の苛立ちがトリガーとなっているんでしょ?

 本作のような観念の世界でリアリティを論じても意味がないですよね。 僕はあのような海の向こうの町では、戦争が始まっても不思議ではないと、ただそう思えるだけです。