村上龍 海の向こうで戦争が始まる 7

 村上龍「海の向こうで戦争が始まる」は不思議な作品です。海の向こうの町とはどこなのか。どこのビーチから町を眺めているのか。そもそもいつの時代の話なのか。龍さんは「抽象的で観念的な世界を、想像力だけを頼りに書き上げた」と言っています。

 この作品と前作「限りなく透明に近いブルー」との絶対的な違いは、まさにその点ですよね。自叙伝のような前作を支配しているのは抜群のセンスですし、この作品に求められたのは究極の想像力なのです。

 180度違う2つの作品に共通しているのは視点のクールさです。前作の主人公リュウの視点はあまりにも冷めていましたよね。そしてそれ以上に冷めているのが本作の絵描きの僕とフィニーです。

 なにしろ対岸の町で祭りが始まろうと殺戮が繰り返されようと、何1つアクションを起こさないばかりか、リゾートしきってますから。ですがこのクールさこそが、この作品をカッコいいと思わせる最大の理由でもあります。