村上龍 愛と幻想のファシズム Seventeenth

 ずいぶんと長い間、書き続けましたね。「限りなく透明に近いブルー」を抜いてダントツのロングランとなりました。飽きませんでしたか。村上龍「愛と幻想のファシズム」です。

 この作品は政治小説でもなければ経済小説でもない、以前書いたように単なるエンタテイメントでもない、同じプロットだからといって「希望の国のエクソダス」とも違う、最初から最後まで限りなくトウジとゼロの物語なのです。その他の全ての要素は単なる風景にしか過ぎないのです。

 小説のラストでトウジは、ゼロが北海道で撮影したフィルムを観ます。そしてそのフィルムに写し出されたサーモンに対して、最終行でこう結びます。「そのピントの狂ったサーモンは何かに似ていた。俺の中でうまく像を結ばなかった黄金のエルクにそっくりだった」。

 トウジがハンター時代から、そして狩猟社結成後も、その全てを懸けて追い求めてきたものの象徴が黄金のエルクです。そしてトウジが最後まで捉える事のできなかったその黄金のエルクを、ゼロだけが捉えていたという事ですよね。泣けます。