村上龍 愛と幻想のファシズム Sixteenth

 村上龍「愛と幻想のファシズム」。以前フルーツの記事を書いた時に、ある方から「フルーツは、容姿端麗で何にも依存せず、主張せず透明感のある優しい存在、幽霊かも」というコメントをもらいました。幽霊。この世の者とは思えない美貌、際だった透明感、透けている存在、ゼロのみならずフルーツまでもが幻想だとしたら。

 この作品はトウジの語りのもと、狩猟社結成後の激動の数年間がまるで何事もなかったかのごとく静かに幕を閉じます。

 何事も起こってなかったかのようなエンディング、そしてゼロもフルーツもその存在が幻想であるなら、実は狩猟社も幻想であり、物語の中で起こった全ての出来事がトウジの夢の中だったのではないでしょうか。物語の冒頭の街、一日中陽が沈まないイヌヴィックから、時計は一時しか動いてないのかもしれません。

 「愛と幻想のファシズム」に想いを巡らすとき、その想いは果てしないです。