村上龍 愛と幻想のファシズム 11

 村上龍「愛と幻想のファシズム」の魅力は、大規模で緻密に構築されたストーリーにあることは言うまでもありません。ですが最大の読みどころは、実は別なところにあります。

 それはトウジが直面するパラドックスです。腐った日本のシステムを破壊し世界を相手にしていく狩猟社は、常により大きな敵と対峙せざるを得ません。そしてそれは狩猟社自体が、圧倒的な力を身に付けるための自己増殖を繰り返し行う事を意味します。

 自己増殖する組織とは何か。それはトウジが忌み嫌っていたシステムにほかならないのです。狩猟社に順次集まってくる優秀な人材達は、そもそもがシステムの内側に居た人間達であり、彼らによって整理され統制がとれたピラミッド型組織の狩猟社こそシステムそのものなのです。既存のシステムを破壊しようと始めた狩猟社は、自らがシステムの奴隷となっていたワケです。

 巨大なシステムに対抗し得るのは、やはりシステムだけなのか?