村上龍 愛と幻想のファシズム 8

 村上龍「愛と幻想のファシズム」。この作品の希に見るスケールの大きさは、経済という装置を大胆に仕掛け、その舞台を世界としているところにあります。そして日本中が浮かれていた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」のバブル突入期に、世界恐慌を題材にする龍さんの想像力にはビックリします。

 しかしうねるような経済に対する表現の方法には、少しばかり不満もあるのです。描写がほとんど無くて説明に終始してる点です。

 当時と現在では経済を動かすプレーヤーが違うのかもしれませんが、経済のダイナミズムはやはりマーケットのはずです。希望の国のエクソダスの記事で書いた事と同じなのですが、やはりここはマーケット関係者を主要人物にして、徹底的な緻密な描写で世界恐慌後の世界を表現してほしかったです。

 優秀なテクノクラートが何人も「狩猟社」に参画してきますが、代わりに1人ずば抜けた才能のトレーダーがいて、マーケットと彼を緻密描写できればホントにすごかったと思います。贅沢な悩みですか?