村上龍 オーディション 6

 村上龍「オーディション」のラスト20ページ、尋常でない怖さの秘密は、これでもかという超緻密な描写に徹しているからだと思います。

 持続するスピート感、張りつめたテンション、表情ひとつ変えない麻美、飛び散る鮮血、ボリューム最大のオーディオ、横たわる愛犬、断線後の暗闇の世界、死を受け入れようとする青山。とにかくこの場面の描写には圧倒されます。この20ページの描写のためだけに、残りの9割のページが用意されているといったカンジです。「イン ザ・ミソスープ」の前哨戦です。

 ところでここで麻美が使用する道具にハットピンというモノがあります。僕は見た事がないのですが、骨付き肉をいとも簡単に切断する道具のようです。麻美のような非力な女性でも男性の足首を切断する事が可能というシロモノです。同時に足というのは麻美のトラウマの象徴でもあります。ナイフでも包丁でもピストルでもない、ハットピン。

 こんな道具をチョイスする龍さん。なんというセンスか!