村上龍 オーディション 3

 ところで村上龍「オーディション」の冒頭で、最愛の妻を亡くし失意に沈む7年前の青山と、母を亡くした8歳の重彦の様子が回想シーンで登場します。

 特に印象に残るシーンは、季節は夏の終わり、前年までは3人で行っていた毎年恒例の山中湖への旅行に、2人で行く事となるシーンです。その4日間の滞在中、2人はテニスをし続けるのです。まだ始めたばかりで2人とも上手ではなく、ラリーはほとんど続かないのでつまらないはずなのに、とにかくテニスをし続けるのです。

 何かをがむしゃらにやり続けなければ、深い哀しみに押しつぶされてしまうという事を、8歳の子どもですら感じ取っているのです。そして父もまたそうする事以外には我が子に何もしてやれないのです。

 その後も2人は時間にただ身を委ねる事をせず、がむしゃらに何かを探し続ける事で、少しずつ妻そして母の死を受け入れていきます。最愛の人を亡くすという事はどういうことなのか。胸に詰まります。