村上龍 イン ザ・ミソスープ 7

 村上龍「イン ザ・ミソスープ」の昨日の記事で紹介した殺戮場面、意外なことにあまり嫌悪感は抱きません。そもそもフランクはミソスープに惹かれて外部からやって来たわけです。ところがミソスープの国で目にするモノときたら理解不能なモノばかり。

 たとえば、世界でも有数の金持ちの国なのにどうして過労死するまで働かなければいけないのか。豊かな日本の女子高生がどうして売春したりするのか。僕達ミソスープ国の住人はこの問いに答えられるだろうか?

 嫌悪感を抱かないのは、殺戮される7人が外部から見て異常に写る世界・ミソスープの国にどっぷりつかった醜い腐った人達の象徴だからです。

 この殺戮場面の中、僕が特に好きなシーンがあります。次々と人が殺されていく極限状態の恐怖の中で、皆自分を失っていきます。死を受け入れてしまうのです。そんな中ケンジだけが鋭利なナイフを喉元に突き付けられながらも、フランクにただ一言こう伝えます。「No」。強い意志と明確な危機感を持ち得た者の言葉だけがフランクに伝わったのです。